研究経過報告書

2021年 8月28日
千葉大学
助教 加藤尚也、講師 前澤善朗

概要: 

ウェルナー症候群は常染色体劣性遺伝を呈する早老症で、本邦に推定700~2000症例と推察されている。両側白内障や糖尿病を呈し、心筋梗塞や悪性腫瘍を発症して50歳代半ばでなくなることが多い。四肢の難治性皮膚潰瘍を7割~9割に発症し、3割は骨髄炎から下肢切断に至るが、体幹部の皮膚は健常に保たれることが多い。本研究ではこのメカニズムを解明するために、同一患者のより採取した体幹と末梢の皮膚線維芽細胞の遺伝子発現プロファイル解析並びに分化誘導実験を行い、末梢皮膚線維芽細胞は脂肪分化能が減弱する一方、骨化能を保持しており、これがウェルナー症候群の難治性皮膚潰瘍の背景病態を構成している可能性が示唆された。 

1研究の目的 

ウェルナー症候群において最も患者QOLを損なうのは四肢の末梢にできる難治性皮膚潰瘍である。足底、アキレス腱、肘などに好発し、軟部組織の石灰化部位に一致して生ずることが多い。難治性皮膚潰瘍は強い痛みを伴い、ウェルナー症候群患者のQOLを著しく損なう原因となっている。一方、ウェルナー症候群患者の体幹部の皮膚はほぼ正常に保たれる。すなわちウェルナー症候群の対幹部と末梢の皮膚には老化の程度に相違がある可能性があるが、この詳細やメカニズムは不明である。 

2.研究の方法 

ウェルナー症候群患者2名より末梢並びに体幹から皮膚線維芽細胞を採取、培養を行った。増殖、テロメア長を測定し、またRNA-seq法を用いて遺伝子発現プロファイルの解析をおこなった。さらに、脂肪分化誘導、骨分化誘導、軟骨分化誘導実験を行い体幹と末梢の相違を観察した。 

3.研究成果 

細胞の増殖は末梢由来線維芽細胞では体幹に比較して減弱しており、また、telomere FISH法で測定したテロメア長も、末梢線維芽細胞では短縮していた。さらに、RNA-seqでは発現変動遺伝子のgene ontology解析によりskeletal system developmentやembryonic limb morphogenesisなど、発生や分化に関連する遺伝子群が変動していることが判明した。このため、線維芽細胞の分可能に異常をきたしている可能性を考え、脂肪分化、骨分化、軟骨分化誘導を行い、末梢と体幹の線維芽細胞で比較検討したところ、ウェルナー症候群患者の末梢組織由来線維芽細胞では、骨分化能は保たれていたものの、軟骨分化と脂肪分化能は減弱していることが判明した。 

このような検討から、ウェルナー症候群の皮下組織では線維芽細胞の形質転換が起こり、骨分化と軟部組織の石灰化が起こる一方、脂肪組織への分化は傷害されることから皮下組織のクッションとしての機能が減弱し、石灰化部位に一致した難治性皮膚潰瘍を呈する可能性が示唆された。このような線維芽細胞の形質の解析はウェルナー症候群の難治性皮膚潰瘍の病態解明と、新規治療法開発に資すると考えられる。 

図:末梢と体幹部皮膚線維芽細胞の分化能
図:末梢と体幹部皮膚線維芽細胞の分化能

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です